都会の香りを春に感じて【第七話】【ケータイ小説】【おすすめ紹介処】

小説好きにおすすめ
この記事は約6分で読めます。

お菓子というものは、実に種類が沢山ある。

チョコレート系から、スナック菓子系から、和菓子系やら、沢山あるのだ。

流石に、

−−何のお菓子が好き?−−

とは、カッコ悪すぎると感じて、メッセージを送る事が出来なかった。

とコンビニに寄っているうちに、今の自分の置かれている状況が冷静に見えてきた。

繰り返すが、僕は女性と付き合ったことがない。

そして、今僕は女性のアパートに1人向かおうとしている。

そう考えを巡らせていると、お菓子を選ぶ事が出来なくなってきた。

何を買ったかもよく分からぬまま、坂さんがご飯を作ってくれているアパートへと向かう。

梅雨で雨とは言えど、湿度も高く気温も20℃以上ある。

そこにもう2度と味わうことのないであろう、高揚感や期待感。

気付けば僕は発汗で、顔などをはじめ、凄いことになっていた。

この時、心底化粧をする文化が無い日本の男子に、生まれてきて良かったと感じた。

そうこうしている内に、アパートについてしまった。

震えが止まらない。

原因は極度のあがり症から来るものだろう。

嬉しい気持ち50%、怖い気持ち50%で、実に情けない次第である。

本来、この年齢の男子であれば、嬉しいが100%なのだろうが。

そうこうしている時、

−−まだ?−−

と彼女からメッセージがきた。

意を決した僕はメッセージを既読無視して、アパートのドアを叩く。

「ピンポンあるよ!」

という声と共に、坂さんが部屋のドアを開けてくる。

なぜか、僕は言葉が出てこない。

「ん!どうしたの」

「こんにちは..いや、お邪魔します」

この瞬間、僕は女性の1人暮らしの部屋に、初めて入らせていただいた。

僕の部屋と違って、小綺麗にまとめられた玄関の入り口。

加えて、どこの芳香剤なのか、全く分からないが、アパート独特の木の匂いというかなんというか。

これが全くしなかった。

気がつくと、居間へと誘導されて、リビングの椅子に座っていた。

「ん、緊張してる?」

「いや、もう慣れてきた」

「その割には、凄い汗かいてるよ」

「ちょっと、景色眺めて良い?」

決して、夜景愛好家でもなければ、写真家でもない自分が外を眺めたかった理由はただ一つ。

涼しい風が欲しかった。

「ベランダ、うち意外と眺めいいよ!」

1人で眺めないと本来の目的である発汗を抑えるという事象に対しては、全く意味がないのであるが。

簡潔にいうと、感動をした。

それまで僕は憧れた人を諦めて、リア充と呼ばれる方々をただ拝んできた人生だった。

綺麗な都会の夜景。

綺麗な目をした女性。

ベランダには、この2つが僕の視界には映っていた。

二度とこのような体験をすることはないのだろうと感じた。

気がつくと、不安から来る多汗も後を引いていた。

「あんまり眺めてると落ちるよ」

「あぁ、ごめん!」

そう言われたので、潔くリビングへ戻るとする。

そこで僕はこの地に来てから、初めて家庭的な料理を目にした。

特に辛味のよく効いてあるだろう、鍋がとても美味しそうだった。

「お菓子は!!」

と咆哮のように聞こえてくる声が、僕の手をリュックに向かわせた。

あまりよく覚えていない、買ってきたお菓子をみると、魚のすり身系の鼻にツーンとくる一品を大量に購入していた。

心の中では、もう少し沢山20円の小さいチョコレート系も買ったつもりだったのだが。

レシートを見返してみると、魚のすり身系を20枚くらい買ってきている事に間違いはなかった。

「え!!笑」

と言われた後、僕は勝負に出た。

「いや、魚のすり身系の鼻にツーンとくる一品が好きって聞いていたような気がして」

「うん!好き!けど、いつ話たっけ」

「まぁ、いいじゃん」

どうやら、彼女は本当に魚のすり身系の鼻にツーンとくる一品が嫌いではなかったみたいだ。

我ながら、賭けに勝ったような気分になった。

「でも、こんなには要らないかな」

「あぁ」

そう言われて、メンタルに一瞬きたが、次の一手を僕は繰り出す。

魚のすり身系の鼻にツーンとくる一品と同じ、駄菓子コーナーに並んでいるあのチョコレートだ。

「20円の小さいチョコレート系が4つ…?」

「う、うん、ご飯食べた後のおやつはこのくらいで十分でしょ!」

「そっか、まぁ、いいや、飲み物無いから、一緒に買いに行こう」

心臓が再び高鳴ってくるのを感じた。

坂さんのアパートは道路に面していて、コンビニまでは、歩いて5分ほどかかる。

僕はもう、彼女を好きになっていた。

道路に繰り出した時、ふと、彼女からこう言われた。

「もう!やっぱり!」

「はい」

「女子に車道側を歩かせるの?」

「あぁ、ごめん」

そう言いながら、僕は彼女の事をクレーンゲームのアームのようにぎこちない動作で移動させる。

「景品じゃないからっ!」

「パンダの景品だと思いました」

「ん」

「なんでもない!早く行こう」

そう、彼女はふっくらかほっそりかで言えば、前者に当てはまる人なのだ。

そのため、ついつい垂れ目が特徴な事もあり、そう表現してしまった。

僕は面白い人間ではないが、1対1で笑いを取る事は苦手ではない。

そのまま、コンビニへと入るが、僕は気分を害してしまっていないか、不安で仕方がなかった。

コンビニに入ると、彼女は無言で品定めをする。

買う物は飲み物だけだから、あっさりと商品は決まって買い物は終了するかと思った。

しかし、ここで1つ問題が発生する。

確かいつかの夢の中で誰かが、お会計は男子が率先してするものだという事を言っていた気がする。

「払おうか」

「鍋の材料代払えっ!!」

「1000円くらい?」

「冗談、いいよ帰ろ」

なんだか頭の中が整理がつかなくなってきてしまったため、ひとまずアパートに帰ることにする。

帰路を辿っていると、ふとカップルが反対側の道路を歩いていた。

この時、妙に周りが気になった。

元々、僕には大学の友達なんていないはず。

誰に見られようと、関係はない。

だけど、側から見たら僕も女性と歩いている男性の1人に映るだろう。

この事を認識した時、僕は人生のミッションを1つクリアしたような。

そんな多幸感に包まれていた。

「え、今なんか、ニヤけてた?」

「そんな事は滅相もございません」

「なら、許そう」

これもいつかの夢の中で誰かが、呟いていたような気がするが、

はじめて2人きりで会った時には、もう互いの服従関係は成立していると。

部屋に入ると、辛味のよく効いてあるだろう、鍋をはじめ、久しぶりの孤食を脱した僕の心はとても穏やかだった。

夕食を食べ終わったあたりで、僕には2つの選択肢が浮かんできた。

帰る。

まだ居る。

というか不安強めのビビりの僕には、選択権はないような気もしていた。

でも、場の空気が濁る事を僕はとても嫌っていた。

こういう時、男子の頭は良く回転すると身を持って感じた。

生物学上、男っ気が少なくとも、僕は男性だから。

ふと、坂さんの部屋にあるゲーム機が視界に入ってきた。

無意識のうちに、僕は自分のゲームアカウントでログインをし、野球の対戦ゲームの対人戦を彼女に申し出た。

「めんどくさい」

返ってきた返答はこの1つだった。

一気にテンションが、直滑降仕掛けたところで彼女から、

「それよりさ」

※この作品はフィクションです

☟前回

☟どうぞ御一つ『ポチッ』をお願いします。

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました