都会の香りを春に感じて【第一話】【ケータイ小説】【おすすめ紹介処】

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「みんな行くから」

そんなどうしようもなく、平凡な理由で、僕は大学生になった。

時は平成も終盤に差し掛かっている頃。自称、進学校にいた僕は気が付いたら都会に居た。

これといって、やりたいこともなければ、働く勇気もなかった。それで、第二志望の大学に行くことになった。

「何食べればいいんだろう」

知っている友達もいない。助けてくれる人もいない。何も知らない僕は4年間この生活を続けられるのかという不安に駆られていた。

家でご飯すら炊いた事のない僕は、気分の乗らない重い足取りで、近くのコンビニに向かう。

6畳1Kの安アパートの部屋には、大量のサークル勧誘のチラシが溜まっていく。

とりあえずいくつか見学に行ってみるが、遊ぶためのサークルしか見当たらず、何にも所属する気にはなれなかった。

そんな時、家庭に問題のある子どもたちを支援するアルバイトの募集を目にする。時給は結構高い。

「お金無いし、応募してみよう」

ほぼ引きこもりのようになっていた僕は、しばらく握っていなかったペンを握り、書き方の分からない履歴書を書く。

数日後、

「一度見学に来てくれませんか!」

採用担当者と名乗る奥田さんという女性が僕に電話をかけてきた。

「分かりました」

学校以外、安アパートからほとんど外に出ていなかった。

そのため、有り得ないくらい腰が重かったが、行く他、社会とまともに関わるあてがない。

慣れない電車の乗り継ぎをして、目指している区へと向かう。

雪国生まれの自分にとって、その区の春の暖かな陽気は、元々テンションの低い僕を鼓舞してくれるようだった。

「失礼します。アルバイトの現場面接に来ました。佐藤春斗と申します。よろしくお願いします」

元々あがり症で不安だらけの僕は震える声で、そう挨拶をする。

「はじめまして!若いね!じゃあ、今日は教室で子どもたちと適当に話してて!!」

奥田さんという社員の女性は、あり得ないくらい高いテンションで僕に話す。

「あぁ。そうだよな。僕のテンションじゃついていけない」

そう思っていると、一人の男の子が僕に話しかけてきた。

「バイト?」

不思議そうな表情で、その子は僕に話しかけてくる。

「うん。でも、今日教室での様子がイマイチだったら、採用されないかもしれない」

思わず、そう本音で答えてしまった。

「えー。奥田さんに話しとくよ。あの人がいいなって」

びっくりしたが、嬉しかった。後で、その子になぜそう話したのか、聞いてみると、

「雰囲気が緩くて怒らなそうだったから」

と言われた。18歳のあの時、僕は人生で初めて微かな自信を持つことができた。

「あの。はじめまして」

若い彼女が話しかけてきた。

僕が採用されたアルバイト先は、教室のアルバイトが2人体制になっている。

いわゆる、パートナーを組むバイトの同僚と言えば良いのだろうか。

明らかに若い彼女の眼差しに、緊張をしたというか、彼女すらできたことのない18歳の少年にとっては、嬉しいを通り越して不安を覚えた。

「この人とコミニュケーションをとりながら、働いていけるのだろうか」

そう。極度のあがり症で、後に不安障害と診断される僕は女性と話すだけで、冷や汗が止まらない。

「あの。佐藤さんは大学どこに通っているんですか」

彼女がそう話しかけてくる。

「◯大だけど」

「え!わたしもです」

それが、アルバイト先で知り合った坂さんと僕の初めての出会いだった。

目がぱっちりでタイプの人であったが、それよりも、まず仕事を覚えなければならない。そう。邪念を排除しなければ、仕事には集中できない。

初日は仕事を覚えることで必死だった。というか子どもたちの名前を覚えるだけで終わった気がする。

4時間ほど働いて、帰路へと向かう。

「あれ。電車?」

僕がそう聞く。

「はい!湘南線です」

どうやら、同じ電車らしい。気まずい時間に慣れない満員電車。僕は全身冷や汗で、とても春とは思えない暑さを感じていた。

15分ほど電車に乗ると、最寄り駅につく。

「僕は次降りるね」

初対面の彼女に、カッコつけていた気持ちがあったのか、18歳男子のプライドがあったのか、なぜか、自分はタメ口をついている。

正直、ウザいと思われていたかもしれない。

「わたしもこの駅なんです」

「あ。そうだったの」

何気なくそう返したが、内心色んな意味でとても動揺していたと思う。

きっと、手汗はやばかったと思う。

我ながら気持ち悪い。

駅を出るとすぐに3つに道が別れるが、この方向は違った。

さすが住まいは離れていると気付き、残念というか、安堵の気持ちというか、春を知らない僕には複雑な感情だった。

安アパートにつくと、もう22:00を過ぎている。

「何食べよう」

そう。僕は。自炊ができない。

これはもう自業自得だが、何か食べないと明日の一限がもたないので、とりあえず最寄りのコンビニにいく。

決まってコンビニでは、揚げ物1つと惣菜カレーをいつも買う。

そして、家に帰ってそれを食べる。

時々、涙が出てきそうになる。

やはり、1人で過ごす夜は寂しい。とはいえ、もう田舎を出て、都会に来てしまった身。

今更、辞めて帰ることはできない。そう想っていると、朝になっていた。

憧れていたインフルエンサーの髪型を真似して、長く伸びた襟足と前髪をヘアアイロンでセットする。

30分はかかっていたはずだ。急ぎ足で大学に独りで向かう。一限は社会福祉学の必修授業。

「これが大学の授業か」

やけに広い教室の中、前列には誰も座っていない教室。

講演会ように、教授が話を始める。

「この都市にもホームレスの方々が沢山生活している」

僕はその一言だけが、やけに耳に残った。

「社会福祉って、介護の事だけじゃないんだなぁ」

4年大の福祉学部に進学したくせに、僕は福祉は介護というイメージしかなかった。所詮その程度の学力しかなかった。

1年生だから、授業は基本的に朝から夕方まで週5である。

何をノートにメモをとれば良いか分からないし、何を昼に食べれば良いかも分からない。

昼に何気なく独りで学食に向かうと、坂さんに似てる人がいた気がする。

でも、華やかな3人組と一緒にいて、はっきりとは分からなかった。

「気のせいだ」

田舎の高校とは違い沢山の人がいる大学。見間違いをしても不思議ではない。

そんなことよりも、朝ご飯にまともな物を食べていないから、券売機へと自然に足が動く。

僕は450円の安い塩ラーメンを頼んだ。多分スーパーで売っている袋ラーメンの延長線のような一品だった。

けど、

これがどんなラーメンよりも美味しく感じた。そう、追い詰められている時に食べるものは、きっと美味しく感じるんだろう。

無事5限まで乗りきって、アルバイト先へと向かう。

幾分かアルバイトで稼がないと月3万2000円の安アパートの家賃が払えないかもしれない。

そう思うと、サボるわけにはいかなかった。

「お疲れ様です」

若干、テンション低めの僕が教室に入ると、まだ誰も来ていなかった。

その後、奥田さんが教室に入ってきた。

「佐藤くん!ごめんね!今日坂さん休みだから、代わりに他の教室の社員回すから!」

そのひと言に気持ちが落ち着かない僕は安心してしまった。

※この作品はフィクションです

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