都会の香りを春に感じて【第二話】【ケータイ小説】【おすすめ紹介処】

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今この空間にいる瞬間、僕にはお金が発生している。不思議な気持ちだった。

当時、お金を稼ぐということは、物を売ったりして利益を生み出す。そして、アルバイト代がもらえる。

そんな感覚だった。

が、

社員の奥田さんから出ていた僕への指令は

「子どもたちと仲良くなること!!」

であった。

心底不思議で落ち着かない気持ちになった。

坂さんが来れないと分かって安心したのも束の間、気持ちが落ち着かない僕はまた落ち着かなくなる。

情け無い。

落ち着かなくても、与えられた責務はこなさなければならない。

坂さんの代わりにきた社員さんは高部さんという男性だった。

体格の良いスポーツマンであった。

「ちょっと怖いな」

案の定予感は的中する。

優しそうな顔が幸いしてか、子どもたちとのコミニュケーションは基本的に円滑だった。

しかし、僕は勉強を高校時代、部活を言い訳にほとんどしていなかった。

挙句の果てに、センター試験が迫って持病の不安障害が顔を出して、まともに勉強した記憶がない。

「これ分かる?」

1人の女の子が古文の質問をしてきた。

「んー…」

答えられなかった。

申し訳ない気持ちになってしまい、黙り込んでしまった。仕事としては、お金をもらう価値はない。

その様子を見ていた高部さんからは、後ほど、

「分からなかったら、他のスタッフに聞いて。子ども悩みを解決するのが仕事だよ」

全くその通りである。

ぐうの音も出ない有様であった。その日は落ち込んだまま、安アパートへと向かう。

帰路を辿っている途中、想うことはたくさんあった。

知り合いは楽しそうなサークルに所属をし、集合写真諸々、SNSに載せていた。

自分はサークルに入るタイミングを完全に見失い、都会の大学に出てきたのに、帰っては独り。学校でも独り。

そんな様子であった。

必修授業で会ったら、軽く話す程度の知り合いはいたが、心からの友人というのはいなかった。

色々考え事をしていると、乗り換えをする大きな駅につく。

駅内のコンビニでおにぎりとチョコレートを買う。

こんな生活を送っているものだから、体重は56…57キロまで落ちていた。

今より10キロも痩せている。

気付くと最寄り駅に到着をしていた。

「前回は独りじゃなかったな」

さすがにそう思った。

思っても何も起きない。

その日は駅のコンビニに浮気をしていたので、最寄りのとこには寄らなかった。

腹は満たされていないが、金も無ければ最寄りのコンビニに寄る気力も無い。

潔く安アパートへと帰る。このアパートがまた癖者で、壁がやたらと薄い。

僕の住んでいた安アパートのどこかにパリピサークルの人がいるらしい。

凄く夜はうるさかった。

耳栓は購入したものの、案外、そのうるささも孤独な大学生にとっては、365日シーンとしているよりは悪くないものであった。

そう、

大根の葉も調理次第では美味しくなるのだ。

気付くと朝になっていた。目覚ましは7:00にセットしているが、時間はおおよそ9:00であった。

「誰かにノート見せてもらわないと」

一限に間に合わず、おもむろにスマホ連絡先をみていくが、高校の友人ばかりで、大学の友人は全くいない。

「あっ」

アルバイト先のトークグループに坂さんがいるのに気付いた。

しかし、アルバイト先で話しただけの上に、大学と学年は同じだが、同じ授業をとっているとは限らない。

第一、学部も学科も聞いていなかった。

−−こんにちは。お疲れ様です。子ども家庭センターの佐藤です。公衆衛生学の授業受けていますか−−

いや、

−−こんにちは!お疲れ様!バイト先の佐藤だけれどもm(_ _)m 公衆衛生学の授業取ってる?−−

そう、チャットの画面を何度も見直すが、一向に文章が定まらない。

それもそのはず、よく考えたら一回しか会ったことがないのだ。

独り何の意味もない格闘を脳内でしていた。

そんな事をしているうちに時間は11:00を過ぎている。

「昼ご飯買いに行こう」

授業にも出ておらず、働かざる者食うべからず状態だが、日本には健康で文化的な最低限度の生活を送る権利がある。

福祉を学んでいたから、詳細な意味は知らぬとも、言葉のフレーズは覚えているから、それを都合良く自分自身に言い聞かせる。

結局、昼ご飯をいつも通り食べて、午後の授業をなんとなく乗り切り、アルバイト先へと向かう。

その日は湘南線から見える都市の景観というのが、どうも目に入ってこなかった。

「お疲れ様です」

アルバイト先につくと、スタッフ一同と、何人かの子どもたちがいた。

「そうだ職務を全うしなければ」

変なところが生真面目な僕はそう決意をして、4時間ほどの職務を勤めあげる。

例によって、帰りの時間だ。

その日は乗り換えをする大きな駅まで、奥田さんが一緒だった。

「佐藤くんって彼女いるの?!?!」

高めのテンションで僕に聞いてくる。

「いません」

低めのテンションでそう返す。

ふと、変な閃きをする僕の思考がこの時、強烈な脳内信号を僕に送ってきた。

−−奥田さんが坂さんに聞くかもしれないぞ、彼氏いるのかって!−−

そう感じた瞬間、僕は勤労を果たした4時間よりもその4秒が長く感じた。

4秒後、奥田さんが口を開く。

「つまらない!楽しまなきゃ!!」

心の中では、

「いや、その答えの方がつまらないから!!」

と思ったが、そんなことは口に出せる訳もない。

「いや、女性と付き合ったことなくて」

ある意味、大人にとっては、格好の餌食になりそうな返答をしてしまう。

「まだ18だし、これから良い出会いがあるかもね!!」

逆にイジってくれた方が笑えるのだが、全く笑えない状況になってしまった。

ふと我に帰った時、隣の隣に座っている坂さんが気になった。

表情をなんとなく伺うと、全く興味が無さそうにスマホをいじっている。

1番最悪の展開だ。

僕はその雰囲気に耐えきれず、乗り換え地点の大きな駅に到着すると、

「友達に呼ばれてて」

そう有りもしない嘘をつき、最寄り駅まで行かずに、5駅ほど手前で降りる。

奥田さんは駅を出てすぐ別の方向に歩き出す。

僕はスマホで地図のアプリを開く。

全く安アパートへの方向が分からないのである。

やっとのことで、自宅への道筋が分かると、トボトボと歩き出す。

羞恥心というか、なんというか。拭いきれない感情を背負ったまま、ネオンの散らつく街を歩きつづける。

4キロほど歩くと安アパートに着く。

誰もいない6畳1Kの築40年近いアパート。いつもはよく聞こえてくるパリピの方々の合唱会。

今日に限っては何も聞こえてこない。何もしたくないし、何も考えたくない。

かといって、話相手もいない。

そのまま、何もせずにシャワーと歯磨きだけを済ませる。

ベッドと呼んでいる、簡易の骨組みに、二重に重ねた布団の上で横になる。

気付いたら、朝になっていた。

目が覚めると、とりあえず通称ベッドから起きる前、お気に入りのインフルエンサーの動画をチェックする。

スマホで動画を見ていると、一件メッセージが入った。

通知のバナーが一瞬で消えたので、よく分からなかった。

坂保美と書かれているアカウントから、

−−昨日聞けば良かったんですが……−−

バナー通知の画面では、最後まで文章が分からないのだ。

僕はトーク画面をすぐに開こうとしたが、現実が飲み込めず、もう一度通称ベッドに潜りこむ。

※この作品はフィクションです

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都会の香りを春に感じて【第一話】【ケータイ小説】【おすすめ紹介処】 – おすすめ紹介処 (osusumedokoro-e-net.online)

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