都会の香りを春に感じて【第三話】【ケータイ小説】【おすすめ紹介処】

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−−昨日聞けば良かったんですが、社会経済学の授業取ってますか−−

そう1通のメッセージが僕のスマホに入っていた。

僕が送れなかった内容に類似したメッセージがいとも簡単に送られてきていた。

おもむろにPCを開いて、時間割を確認してみることにする。

「…取っている」

目から入ってきた情報を脳が認識すると、瞬時に僕はどう返信したら良いか、ということに思考回路がシフトチェンジしていく。

と同時に、大きな期待感と大きな虚無感が僕の脳裏を駆け巡った。

前者は自分がメッセージのやり取りをしたいと、ひと時でも感じた人から業務連絡と同程度のメッセージが来たこと。

後者は学生ならそれくらいメッセージのやり取りは、当たり前のように行われており、自分もその1つのピースなだけであること。

いずれにせよ、僕に既読無視をするという選択肢はない。

ただでさえ、メッセージ欄は定刻に送られてくるニュースの未読が溜まっているだけの寂しい様子。

−−取ってる!−−

違う。

−−取ってる!ところで社会学部??−−

意を決した僕は返信のボタンを押した。

それから何時間経っただろうか。坂さんのメッセージに対して、僕は数分の間隔で返信をしていた。

僕はその様子に心底自分は、メッセージをする相手が恋人どころか友人すらいないことを痛感した。

さすがに相手からのメッセージであったため、返信は間違いなく来るという自負はある。

なんとも情けない。

そうこう返信を待っている間、今日が祝日だということに気付く。

部屋の掃除を黙々と進めるが、暇というものはどうも僕は苦手だった。

過去の思い出をふいに回想して、勝手に持つ必要のない自信を失っていく。

あれは、高校時代、確か高校2年生の時だったと思う。

簡単にいうと、女子の目を見て話せなかった時代のことである。

そんな時、飴と鞭を与えてくれたのが、石橋さんというクラスメイトだった。

きっかけはなんだっただろうか。初めて話をした時は、席が近くなったとか、普遍的なものだっただろう。

それまでは、全くと言っていいほど、女子との会話が苦手だった。

目を見て話せないのはもちろん、そもそも話したいという感情よりも、変な噂をたてられるんじゃないかという思いが強かった。

だから、僕は高校2年生まで、異性という存在とは極力関わりを持たないように過ごしていた。

変な噂をたてられないよう、ただでさえ薄い影をさらに薄くして過ごしていた。

しかし、僕は高校2年生の頃、自分自身の考え方に変化が現れる。

石橋さんはバレーボール部に所属していて、色白のクールな雰囲気の人だった。

僕は〇〇というあだ名で呼ばれるようになった。

いきなりそう呼ばれるようになったわけではない。

うる覚えだが、席という席が隣になったのだ。

色々記憶があるが、生物の時間は本当に楽しかった。

僕に人を好きになるという事を教えてくれたのが石橋さんであった。

どれくらいの人がこの回想に興味を持ってくれるか不明だが、一応説の展開として、示しておこう。

飲み込んだ。

僕は全ての自分の感情を飲み込んだ。

当時、石橋さんにはお付き合いしている人がいて、それも随分長く付き合っていた。

だが、それくらいの理由で、告白を諦めたわけではなかった。

そのお相手の彼がバスケットボールのウインターカップに出場して、輝いている姿に自信を失ってしまった。

僕も同じスポーツをかじっていたことがある身分、高校生の自分にとっては、自分自身の存在価値を教えられたような気がした。

石橋さんから、

「今の彼と別れたら、〇〇よろしく!」

と言われたことだけが、僕の脳裏に残っていた。

その時の僕は、

「少し優しそうな顔以外取り柄のない自分が..」

そう思って、ただただ輝く彼と応援する彼女を見ているだけだった。

暇というのは、心に毒である。

自分はそう一回目の恋をふと思い出してしまった。

−−お!偶然ですね!2回目の講義出れてなくて、もし良かったら、ノート見せてもらえませか−−

過去を回想している間に、坂さんから来た返信内容を見て戦慄した。

「なぜだ、なぜ、社会学部に触れられていない..」

そう思っていた時、いくつかの候補が、ふと脳内に浮かんできた。

1つ目は純粋に答えたくないということである。

正直、これは悲惨である。

2つ目は気付いていないということである。

心の底から2つ目を願った。

が、願っても、今すぐanswerが分かるわけではないので、テンプレートのように決められた返信をする。

−−いいよ!写メ送るね!−−

僕は友達がいないので、講義中はノートを取る以外やる事がない。

比較的ノートは良くまとまっていたので、送ることに対しては何のためらいもなかった。

−−ありがとうございますm(_ _)m−−

そう当たり前の返信が来て、僕はありきたりなスタンプを返した。

そのスタンプにはただ既読がついて終わった。

僕はその日、アルバイトの時間まで、社会学についての書物を読み漁っていた。

レポートを書くためには、事柄の包括的な理解が必要だったからだ。

大学の勉強は嫌いじゃなかった。もちろん、日本最高峰の大学に通っていたわけではないから、学ぶ難易度も身の程にあっていた。

何より、文章を書くことが好きだった。

基本的に好きなことというのは、よく捗るものである。

この日はなんだか、パソコンを叩く手が重かった。頭の片隅が何かに邪魔をされている気がした。

そのまま、午後のアルバイトの時間まで、レポートを1000文字程度打って、動画やゲームに脱線してを繰り返していた。

そして、家を出る時間を迎えた。なるべく何も考えないようにし、最寄駅と着く。

坂さんが最寄り駅にいた。

少し小柄でぱっちりとした目に黒髪の彼女。

普通の男子大学生なら、何気ない事を理由に、話しかけに行くところだと思うが、僕にはそれができなかった。

不安だった。

とにかく、話しかけにいったら、アルバイト先まで、一緒に向かう事になるだろう。

もし、彼女に彼氏でもいたら。

もし、生理的に僕の事を受けつけられない状態だったら。

もし、疲れていて、アルバイト先までは1人で向かいたい気分だったら。

色々考えてしまい、坂さんの事は気になっていたが、潔く2両となりの車両に乗る事にした。

乗り換えをする大きな駅着く頃には、彼女の姿はもう見えなかった。

そのままアルバイト先に向かう。

僕が到着した5分後くらいに、彼女が事務所へと入ってきた。

「お疲れ様です!」

それに呼応するかのように、教室の他のスタッフ達も同じ文言を返す。

僕も一応返した。

「お疲れ様です」

そう。!マークがないのである。僕は基本的にテンションの低い人間だから、!マークがない。

与えられた責務は体調を崩さない限り、僕は生真面目にこなす性分だから、勤務中はとにかく一生懸命だった。

勤めを果たして、退勤の時間を迎える。少しの期待と大きな恐れをしていた時間がやってきてしまった。

「帰りますか!」

坂さんがそう口を開く。

「うん」

僕がそう返事をする。

正直、貧血を起こしそうだった。

が、電車内で倒れるのは、迷惑がかかり過ぎる事案だと思い、必死に精神統一を行う。

アルバイト先からの最寄り駅までは、正直僕は、

「うん」

「そうなんだ」

しか返答をしていなかった気がする。

乗り場所も降り場所も同じ電車へと乗る。唯一の救いは、途中で1つ乗り換えの駅があるということだ。

「最悪。乗り換え駅で降りよう。理由は適当で」

そう自分に言い聞かせて、湘南線の電車に揺られる。

一緒目眩がしたのかと思ったが違った。

坂さんが話しかけてきたのだ。

「佐藤さんってサークル何入ってますか!」

「入ってないよ」

僕がそう返答すると、坂さんが

「じゃあ、部活とかやってる感じですか!」

「いや」

だんだん僕は苦しくなってきていたが、必死に顔色に出さぬよう、表情を取り繕っていた。

「えー!じゃあ、彼女さん一筋とか?」

※この作品はフィクションです

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