都会の香りを春に感じて【第四話】【ケータイ小説】【おすすめ紹介処】

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彼女がその言葉を話した瞬間だった。

感じていた不安、恐れ、後ろめたさ、劣等感。

全ての感情が楽になった気がした。

自分にも、こんな湧き出る力。歪んだ認知を修正する力。

これら諸々、兼ね備えていると感じて自分に感心をしていると、見覚えのある景色が飛び込んできた。

木製の年季が入った趣のある椅子。美味で安価なマイナーなドリンクの品揃え豊かな自動販売機。

「大丈夫。この人」

そう聞こえてくる見知らぬ若い男性の声。

「大丈夫ですか!」

聞き覚えのある若い女性の声。

先ほどまでは、感じることのなかった頭痛と共に、僕は電車内でしゃがみ込んだ状態で、意識が朦朧としていたらしい。

実母が血の気が引いてしまう癖があることを引き継いだのか、僕も緊張が高まったり、強い不安を感じると、倒れる癖があった。

しっかりと、倒れてしまったのは、とある入学式の一度だけだったが、その後は母からよく、

「やばいと思ったら、座りなさい」

と常日頃言われていた。

そう教えられていた事が活きたのか、咄嗟に僕はしゃがみ込んだらしい。

そして、僕は最寄り駅に到着する直前に限界を迎えたみたいである。

今思えば、潔く、体調が悪いことを鑑みて、乗り換えをする大きな駅で、適当に理由をつければ良かったのだか、単純に話していたかった。

それは、様々理由があるが、1つ上げるとすれば、彼女がタイプであることはさておき、ここ最近、まともに人と会話していないからだ。

孤独だった。

辛かった。

不安だった。

確かに、無理をしたのは良くないし、肩を貸してくれたあの時の男性にも、感謝を伝えたいと思っている。

長々と回想を巡らせていると、

「歩けます?」

と坂さんがはっきり聞いてきた。

「大丈夫」

と僕が答えた。

頭痛はしていたが、自分の経験上、間違いなく自宅までは大丈夫そうであった。

しかし、そこは福祉を学んでいる彼女の優しさが強かったのだろうか。

安アパートまで、僕を見届けてくれるそうだ。

正直、蹲った恥ずかしさもあった。

そして、駅のベンチで、肩を貸してくれた男性は、坂さんを僕の彼女だと勘違いをしてすぐ去ったそう。

その後、すぐに歩き始めるのは、良くないということで、10分。いや、20分だろうか。

隣の席で話を聞いてくれていた。

迷惑もかけているような気がしていた。

だから、

「本当に大丈夫」

と言えば良かったのだろうけど、様々感情が相まって、言葉出てこなかった。

「ごめん」

と実際は言った気がする。

最寄り駅を出ると、3つに道が分かれているが、これが彼女と初めて同じ方向の道に歩いていく記憶になった。

「外国語の授業何取ってる?」

「ドイツ語です」

「僕は英語」

「大学の授業って、先生あまり日本語喋らないから、難しいですよね!」

「うん」

そんな何気ない日常会話をしながら、歩いていると、僕の安アパートが見えてきた。

「ここ」

そう伝えると、彼女は何も言わずに、

「じゃあ。私はここで!」

そう言ってくる。

僕は何を想ったのか、

「もう遅いし、送るよ」

と18歳男子大学生謎のプライドが登場し、本末転倒な事を言ってしまった。

「え!笑 具合悪くなったから、今送ったじゃないですか!」

そう返答されたと同時、あがり症で状況が見えなくなる事について、まじめに落胆してしまった。

「あっ。ごめん。気をつけて」

イケてる女性慣れした男子ならここで、スッとタクシー代を渡すなりなんなりすると思う。

言うまでもないが、そんな粋な心遣いは頭の片隅にすらなかっただろう。

ただ手を振ってしまっていた。

情け無いという言葉は、既に通り越していると思うが情け無い。

そして、静かに安アパートに吸い込まれるかのように帰る。

カップラーメンを食べるために、お湯を沸かしながら、ふと、しっかりとお礼を言えていない事に気付く。

−−今日はありがとう−−

そう送ろうと思ったが、なんか、おこがましい感じがしたというか、タメ語を使っている自分がなんだか恥ずかしくなってきた。

−−今日はありがとうございました−−

そう送ると、坂さんから、すぐに返信が帰ってきた。

−−今日は体調悪かったんですか?−−

本当は元から自分は、不安、緊張が強い人間であり、今日に限っての話ではなかった。

今、僕がこの都会で、ほぼ唯一と言っていい、繋がりのある人。気になる人。優しい人。

いつもはあまり人に言わず、隠してきた自分自身の不安症状について。

大学のセンター試験は、不安症状がきつくて、全く集中できなかったこと。

同時期に心療内科に通院していて、不安障害と言われていたこと。

都会の病院に紹介状が出されていたが、無視して病院にもいかず、投薬治療もほったらかしていること。

上げると色々出てきた。

この人になら、話したいと思った。

僕は、

−−実は病気持ってて−−

と返信をした。

優しい彼女は、その後、心配する内容を返信してきてくれて、僕はそれに、ただただ正直に返答をしているだけだった。

最後に、

−−今度お昼食べながら大学で話さない?−−

と彼女からのメッセージに対して、

−−大丈夫−−

と僕が返して、そのやり取りは終わった。

本来であれば、明確な日にちなどを提案すれば良かったのだが、後ろめたさが気持ちに残るまま、やり取りをしていたため、そこまでの考えには至らなかった。

けど、なんだか、その日の夜はいつもより、安心して眠ることができた気がする。

誰しも時間は過ぎゆくものである。

朝になっていた。

体調を崩した次の日も授業がある。その日はアルバイトもなく、無気力に出席のカードを押すため、微頭痛が残る状態で授業に行く。

もちろん1人だ。

昼も1人で食べている。

帰る時も1人。

そして、家に帰ってインフルエンサーの動画を視聴する。すると、メッセージの通知が入った。

坂さんからだった。

−−社会経済学の講義!一緒に受けてもいい?−−

途中で気付いたのだが、坂さんのメッセージが敬語でなくなっていた。

捻くれ思考の僕はこの時、電車で具合悪くなった事がその要因かと推測していた。

そして、細かい事を気にする性格も重なり、どう返信したら良いか。

思慮深く考えていると、1時間も経っていた。

−−良いよ−−

その一言だけを返信した。

第一に一緒に講義を受けると言うのが、どうしたら良いか分からなかった。

当然、タイプの女性から、講義を受けようと言われたら、僕には断る選択肢はないのだが。

自分で奨学金を借りて、かつ親に学費を払わせているからには、真剣に授業に向かいたい気持ちもあった。

言うまでもないが、彼女が一緒では絶対講義に集中できない。

そして、大学の講義というのは長い。90分もあるのだ。

セルフでも空気感に酔いそうになる場面もあったのに。

もしかすると、体調をも崩しかねない。

その日の夜は、あまり眠れなかったと思う。社会経済学は2限に受講をしていた。

9:00頃に起床をして、髪をいじり始める。

そして、家を出る。

歩きながらメッセージを見返すが、僕のメッセージの後、彼女からはスタンプが返ってきていただけだった。

僕は決まって窓側の後側にいつも座っていた。

本来であれば、

−−どこにいる?−−

と連絡すべきだが、1人で受けたい気持ちも少しあった。

なので、連絡はせず、静かに講義が始まるのを待っていた。

しかし、視線は自然と周りをキョロキョロしてしまう。

肩を叩かれたその時、

振り返ると、

いつも違う雰囲気の坂さんが僕を見つけてきた。

※この作品はフィクションです

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